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Ambrose Bierce の “The Moonlit Road” が一つの事実に対して三通りの解釈を示しているのに対して、芥川龍之介の「藪の中」は三通りの事実を提示しているようにみえる。しかし、「藪の中」の主題を近代的心理描写に置くならば、三通りの心理状態があると考えることも可能である。 結局、「藪の中」は、『今昔物語集』第二十九巻第二十三話「具妻行丹波国男於大江山被縛語」を中心とし、部分的に同巻の「袴垂於関山虚死殺人語」を追加し、近代文学に換骨奪胎・再構成したものである。そして、その再構成の過程において、Robert Browning の “The Ring and the Book” や Ambrose Bierce の ”The Moonlit Road” が形式的な影響を与えたものと考えられる。そこに Edgar Allan Poe の “The Murders in the Rue Morgue” の関与も含めて、それらの程度がどれほどのものであったか、まさに「藪の中」である。それこれらの影響は、決して芥川龍之介の独創性、創作性を否定するものではなく、彼の博識と、それを自己のものとして吸収し、自家薬籠中のものとして活用し得る能力を示すものである。「藪の中」は「羅生門」として映画化され、国際的に知られることとなった。